オフィスの原状回復費用は誰が負担する?オーナー視点で解説

オフィス賃貸では退去時の原状回復費用を巡り、オーナーとテナントの間でトラブルが発生するケースがしばしば見受けられます。
退去するテナントとスムーズに原状回復費用の精算をするためには、費用負担は誰が負うべきなのか、その責任範囲を明確にしておくことが極めて重要です。
この記事では、オーナーが理解しておくべき事業用物件における原状回復費用の特約の重要性や、特約を盛り込む際の重要ポイントと注意点について解説します。
目次
オフィスの原状回復費用は賃貸借契約書の「特約」で大きく左右される

事業用物件であるオフィスの賃貸借契約では、原状回復に関する取り決めが「特約」として契約書に明記しているか否かでオーナーが負担する費用が大きく変わります。
はじめに、事業用物件における特約の有効性や、居住用物件との解釈の違いについて解説します。
事業用物件における特約の有効性
オフィスや店舗など事業用物件の賃貸借契約における原状回復の「特約」は、原則として有効とされています。
事業用物件の目的は営利活動です。貸主と借主はお互い事業者同士という対等な立場で契約内容を交渉できるとみなされ、契約の自由度が高いとみなされます。
したがって、特約で定めれば、民法の原則(通常損耗や経年劣化は貸主負担)とは異なり、通常損耗や経年劣化による回復費用も借主が負担するという内容が法的に認められやすくなります。
そのため、オーナー側としては民法の規定とは異なる「特約」を賃貸借契約書に設け、通常損耗や経年劣化の回復費用についても借主に負担させるケースが一般的です。
なお、契約自由の原則から、貸主と借主は原則として当事者の合意があれば自由に設定でき、双方が事業者の場合は、消費者契約法が適用されません。
このような理由から、オーナーは特約で定めることで、通常損耗や経年劣化の回復費用についても借主に負担させることができる可能性が高いといえます。
オフィス物件は居住用物件となぜ違う?「特約」がカギになる理由
では、なぜ、オフィスなどの事業用物件は、居住用物件とは違い、特約によって通常損耗や経年劣化を含めた原状回復にかかる費用の大半を借主に負担してもらえる可能性が高いのでしょうか?
理由としては、居住用物件とは異なり、事業用物件では借主が内装工事を行うことが多く、使用状況も多岐にわたることが挙げられます。物件の使用にあたっては、不特定多数の人が出入りする可能性が高いため、居住用で使用するよりも損耗の程度が予想しにくい点も含まれます。
国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、居住用物件における経年変化や通常の使用による損耗等の修繕費用は賃料に含まれるため、貸主が負担するという見解です。
しかし、オフィスビルの場合は特約について貸主・借主が合意した場合は、通常使用の損耗分を借主負担とする原状回復特約が認められる可能性は高いといえます。
ただ、退去時のトラブルを避けるために、契約締結の際は特約の内容について借主に口頭・書面の両方でしっかり説明し、事前に合意を得ておくことが必要です。
オーナーが特約を盛り込む際の重要ポイントと注意点

ここでは、オーナーが事業用物件の賃貸借契約書に特約を盛り込む際の重要ポイントと注意点について解説します。
賃貸借契約書に「通常損耗・経年劣化を含む」と明記
契約書には、「賃借人は、本物件に生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた損耗並びに経年変化を含む。)を原状に復する義務を負う。」のように、通常損耗や経年劣化も原状回復義務の範囲に含む旨を具体的かつ明確な文言で記載することが必須です。
原状回復義務について特約で盛り込まれる可能性が高いものは以下のとおりです。
・パーテーションの撤去
・天井の塗り替え
・配線の撤去、交換 など
特にパーテーションや配線はテナントの事業内容に合わせて設置されることが多く、退去時には借主の費用負担で撤去・原状回復が求められるケースがほとんどです。
なお、単に「通常損耗・経年劣化も借主負担」と書けば何でも認められるわけではありません。
特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的・合理的理由が存在することなどが必要です。
「スケルトン返し」であることを明確に記載
オフィス物件では入居時の「スケルトン渡し」(躯体のみの状態で引き渡し)に対し、退去時も「スケルトン返し」(テナントが設置した内装や設備を全て撤去し、躯体状態に戻す)を義務付ける契約が一般的です。
この義務が契約書に曖昧にしか書かれていなかったり、口頭での説明だけであったりすると、退去時に多額の費用負担を巡るトラブルに発展する可能性が非常に高くなります。
トラブルを防ぐには、オーナー側が契約締結時に「スケルトン返し」の条項について口頭での丁寧な説明も必ず行い、借主がその内容と費用負担を十分に理解した上で契約に合意していることを確認するようにしましょう。
工事業者の指定と費用負担の透明性
工事内容によっては、原状回復工事をオーナー指定業者に行わせる旨を契約書に明記することで、工事の品質を確保し、費用回収を確実に行うことが可能です。
オフィス賃貸特有の「A工事」「B工事」「C工事」といった工事区分を、契約書で明確に定義することも重要といえます。
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工事区分 |
A工事 |
B工事 |
C工事 |
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工事業者の選定 |
オーナー |
オーナー |
テナント |
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工事業者への発注 |
オーナー |
テナント |
テナント |
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費用負担 |
オーナー |
テナント |
テナント |
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主な工事内容の例 |
共有部分(建物の躯体がメイン) ・建物の外装・外壁 ・屋上 ・エントランス ・廊下 ・共用トイレ ・消防設備 ・共有部の給排水設備 など |
専有部分(建物全体に影響を及ぼすもの) ・防災設備 ・空調設備 ・配電盤 ・専有部分への給排水設備 ・防水設備 など |
専有部分(建物全体に影響を及ぼさないもの) ・会社名や各部屋の案内表記の設置 ・壁や天井のクロス ・床のタイルやカーペット ・家具の取り付け など |
A工事は建物本体に関わる工事であり、ビルの資産価値や安全性に直結するため、オーナーが費用を負担し、オーナー指定の業者が施工します。
B工事はテナントが使用する専有部分の工事であるため、テナントが費用負担するのが一般的です。ただ、建物本体に関わる工事のため、オーナーが工事業者を指定することからトラブルになりやすいので注意しましょう。
C工事もテナントが使用する専有部分の内装工事ですが、ビルの躯体や共用部に影響を与えない部分を行うため、費用負担と業者選定はテナント側です。
これらの区分を明確にすることで、「どの工事を誰が発注し、誰が費用を負担するのか」という最も重要な点が明らかになります。退去時の原状回復の責任範囲が明確になり、トラブルを防ぎやすくなるでしょう。
オーナー側が主導する!テナント退去・原状回復のタイムスケジュール

オーナーは、テナントからの解約通知を受けてから、物件の再利用に向けて計画的に動く必要があります。テナント専有部分の原状回復工事はテナントが行いますが、その最終確認はオーナーの重要な役割です。
テナント退去・原状回復の大まかなタイムスケジュールは以下のとおりです。
1.テナントからの解約通知を受領(契約満了日の1年~6ヶ月前)
テナントからの解約通知を受領後、オーナーは賃貸借契約書の内容を再確認し、原状回復義務の範囲や指定業者の有無などを把握します。次は、テナントに解約通知を受領したことと今後の流れについて連絡しましょう。オーナー指定業者がある場合はその旨を新たに通知します。
2.テナントとの事前立ち会い(契約満了日の3ヶ月前)
テナントと共同で物件の現状を確認し、入居時の記録と照らし合わせながら、原状回復の範囲について確定します。この段階で、必要な工事内容を明確にテナントに伝えましょう。
テナントが取得した原状回復工事の見積もり内容を確認し、契約内容に照らして妥当性を判断します。
3.原状回復工事の進捗確認(契約満了日の1ヶ月前)
テナントからの報告や現地視察などで、工事が計画通りに進んでいるかを確認しましょう。テナントと工事完了後の最終立会い・引き渡し日時を確定します。
4.原状回復工事の最終検査(契約満了日またはその直前)
テナントおよび工事業者と共に、原状回復工事の最終検査を実施します。
工事に問題がなければテナントから全ての鍵を受け取り、物件の引き渡しが完了したことを示す書類を交わします。
5.保証金の精算(契約満了日の数日~数週間後)
最終検査の結果に基づき、原状回復費用、未払い賃料などを考慮して保証金を精算します。保証金は10ヶ月以上の場合が多く、高額なだけに、透明性のある詳細な精算書を作成しテナントに提示することが重要です。
オーナーはテナントの解約通知を受けた後は、賃貸借契約書の内容を確認し、テナントと早期に原状回復工事の実施について打ち合わせを行います。
原状回復工事にあたっては計画的なスケジュール管理を行い、オーナー主導で工事を進めて行きましょう。
なお、アソシクリエイトでは急な退去の場合も対応可能です。オーナー様のご都合に合わせますので、原状回復工事の専門家である当社にお任せください!
まとめ|オフィスの原状回復費用の負担割合は特約で明確に定めよう
オフィス賃貸における退去時の原状回復費用の負担割合は賃貸借契約書の特約で決まります。
民法の原則では通常損耗・経年劣化は貸主負担ですが、事業用物件では借主負担とする特約が一般的です。
トラブルを避けるためには、契約書で通常損耗・経年劣化を含むことや、スケルトン返しの義務を明確に記載することが欠かせません。A・B・C工事の区分も詳細に定義しましょう。
何よりも重要なのは、これらの特約を法的に有効にするため、契約締結時に借主へ丁寧に説明し、理解と同意を得ることです。これにより原状回復費用の負担割合を巡るトラブルを回避できます。
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